卒業生からのメッセージ


 この『卒業生からのメッセージ』は,機能材料工学研究室ならびに旧,電子材料・半導体研究室の卒業生有志が中心となって運営しているページです.
 私たちは,本学電子工学科で学ぶ,あるいは学ぼうとする学生には,『社会の役に立つ技術者へと成長して欲しい』と思っています.そこで,『学生時代に取り組んでおいた方がよいと思うこと』などを掲載していきますので,是非,これからの学生生活に活かしてください.


 大学生活で身につけておくべき一番大切なものは,ひとつひとつの知識ではなく物事の考え方です.大学には様々なカリキュラムがありますが,それらを端から丸暗記しても何も意味はありません.何が問題となっていて,それをどのような手段で解決に導くか,『そのプロセスを考える事が大切』です.また営業職と違い,技術職には『必要なデータを収集する能力』と『それを分析する能力』が求められます.問題を解決する手段,情報を正しく収集・分析するための『モノサシ』として,はじめて回路理論,電磁気学,統計学など,在学時に学んだ細かい知識や方程式が必要になるのです.
 在学中は同年代の友人と仲良くおしゃべりしていれば良いですが,社会に出た時には(大抵の場合)年齢的にも立場的にも自分が一番下となります.自身の両親と同じ年齢層の人と商談を行う事も決して珍しくはありません.卒業するまでに年上の人に慣れておく,とくに会話に慣れておく事をお勧めします.その内容は,専門的な事でもただの雑談でも構いません.研究室の教授は,その練習が出来る一番身近な存在だと思います.

水橋 芳徳(電気メーカー勤務―開発部門,2007年度学部卒業)


 実社会において関わりをもつ人たちは,共通の趣味や興味をもたないことが多く,また育った環境も違います.そのため,誰かと話をするときには,相手に合わせて話題を変える必要がでてきます.つまり,社会情勢や経済状況を知ることはもちろん,文学や歴史などにもある程度は明るくなければなりません.
 大学の講義には,体育理論や心理学といった一般教養科目があると思います.これらの科目では,社会人として身につけておいた方がよいと考えられる『最低限の教養』を修得します.たとえば,貝原益軒という人が江戸時代に書いた,「養生訓(ようじょうくん)」という健康法に関する書物があります.この書物のことを知らなくても,日常生活において困ることはまったくありません.しかし,目上の方との会話の中でこの書物が話題に挙ったとき,もし知っていれば会話が弾み,相手の方は会話を楽しむことができることでしょう.ただ『知っている』ということも重要なことなのです.
 ところが,技術者というのは社会に役立つ技術・製品を生み出していく,つまり『正解のない問題を解く』ということを続けなければなりません.ある課題を解決しようとするときには,どんな実験をして,どんな測定機器を使って必要なデータをとり,それがどのような理論に基づくのかという仮説をたて,これを試行錯誤しながら確かめていきます.まったく同じことをしている人はいないので,答えが『教科書には載っていない』のは当たり前です.
 技術者にとって大切なことは,正解のない問題を解くために,『必要な知識を自ら吸収し続ける力』と『データなどを解釈するための力』を身につけていることです.サミュエル・スマイルズが1858年に発表した名著『自助論』(竹内均訳,三笠書房)の冒頭には,「天は自ら助くる者を助く」という一文があります.大学で学ぶことは,決してゴールではありません.『新たな学習法を身につけるための機会』なのかもしれません.学生時代に『必要な知識を自ら吸収し続ける力』と『データなどを解釈するための力』をしっかりと身につけてください.また,社会人に求められる礼儀作法を修得しておくことをお勧めします.

(1994年度大学院修了)
仕事上の都合により,修了年度のみ掲載します


 現在,私は電機機器メーカーにSEとして勤めています.その仕事を通して感じることは,大学の講義で学ぶ専門知識や一般教養だけではなく,『自己学習能力』や『論理的思考』,そして『折衝能力』を身につけておくことも重要であるということです.
 例えば,お客様に開発システムのよさを伝えるためには,自分自身がそのシステムについて深く理解していなければならないので,『自己学習能力』が求められることになります.また,どうすればお客様に満足して頂けるのか,あるいはお客様に納得して頂くには何をしなければならないのか,といった場面では,社内的な調整・交渉といった『折衝能力』や,筋道を立てて話をするための『論理的思考』が大切になってきます.
 私は大学生活において,卒業研究,サークル活動,先輩・後輩との触れ合いなどの様々な経験を通じて,折衝能力や論理的思考を身につけるだけではなく,自己学習の癖を知ることができました.このような経験をすることができたのは,とても幸運なことだと思います.
 社会に出てからは何をするにも時間の制約が付きまとい,なかなか新しいことにチャレンジすることができません.大学生のうちに自由な時間を有効に使い,自らの可能性を広げておくことをお勧めします.社会に出るときや社会に出た後にも,その経験はきっと大きな力となるはずです.

安友 翔一(電気機器メーカー勤務,2007年度学部卒業)


 電子工学というものに興味があって電子工学科に入学しましたが,興味と言っても漠然としたもので,とくにこれをやりたい,といった明確なものではありませんでした.そのきっかけは小さい頃に好きだったテレビゲームで,ゲームセンターのおじさんがゲーム台の蓋を開けて中をいじっていた時に見た基板や配線でした.これはどうなっているんだろう?どうやって動いているんだろう?と思ったのです.そんな程度の興味の延長だったので,大学では手当たり次第に講義を受けて,自分はなにをやりたいのかを探した4年間だったと思います.
 大学を卒業してから研究・開発の道に進みました.いまは自動車までも電池で走る時代なので,電子材料から機械工学まで色々な分野の知識が求められています.大学の時に受講したことを思い出して勉強しなおしたり,また大学では全く学ばなかったことが必要になったりと,勉強はこれで充分ということは無く,いまでも新しいことを始める度に教科書や論文と向き合っています.
 高校,大学と受験があって,またその後は就職試験があり,自分なりに努力して勝負してきたつもりでしたが,本当の勝負は社会に出てからだと思います.大学を出たというのは何の保障にもなりません.これはどの大学を出たとしても同じです.そして,その本当の勝負である仕事は,決して自分に合わせてはくれません.自分にとって都合の良い仕事なんてものは無くて,自分が仕事に合わせていくしかありません.仕事に必要な知識も,また職場での仕事のやり方や人間関係も,自分から仕事や相手に合わせなければなりません.これは言われて直ぐに,そう成り済ませることではないので,学生の頃からでも,何につけても俺が俺が,と我を出さずに相手の事を考えることを身に付ける練習をしておくことが大切だと思います.
 こんな事ばかり言うと,なんだ社会は大変でつまらない所だ,と思うかも知れませんが楽しいこともあります.高校や大学に努力して合格して嬉しかったのと同じように,またはそれ以上に仕事に成功した時の喜びは格別のものがあります.仕事が難しくて大変であればあるほど,その分だけ嬉しさも倍増です.また仕事に成功するということは,会社の役にたったという事でもあるので,自分だけでなく周りの皆が喜んで,楽しいことばかりになります.「人生に夢を描いて,その夢に憧れて生きよ」という言葉があります.仕事をやり遂げた時の嬉しい自分の姿を想い描いて,その姿になれるように努力する.夢がかなったときの自分の姿を想って取組めば,何事も出来ないことはありません.皆さんも未来の自分の姿を想い描いて,努力して下さい.

(1998年度大学院修了)
仕事上の都合により,修了年度のみ掲載します


 大学で学んだ科目で印象に残っているものとして半導体工学はもちろんですが,その他に微分積分,実験演習,第2外国語などがあげられます.半導体工学は自分の専門分野の基礎を築く上で重要ですが,微分積分は全く理解できないものへの対応方法,実験演習では物事の考え方,解析の仕方などを,第2外国語では多様性を学んだと思っております.専門分野以外の科目ではその科目の内容以上に履修したことによってバックグラウンドが広くなったことがよかったと思っております.
 半導体デバイスの研究開発を行っているので大学で学んだ半導体工学の知識は基本となっていますが,それ以上に大学で学んだ『物事をいろんな角度から観察し,課題を解決する方法を考える力』が役立っていると感じております.技術は日々進化しているので必要な知識は都度仕入れていく必要があります.それを理解する基礎を築く上で専門分野の知識は重要ですが,それだけで直面する課題を解決していくことはできません.専門分野以外の知識も間接的に重要な役割を果たします.
 ロバート・フロストの詩に「行かなかった道」がありますが,研究開発は新しい道を作りながら進んでいくことになります.そのための基礎づくりが大学で築ければ良いと思います.また,会社ではチームで仕事をしますので,いろんな価値観を持った人とのコミュニケーションも大事となります.授業だけでなく,友人とのコミュニケーションも大事にしましょう.

吉川 昌宏(電気機器メーカー勤務,1991年度大学院修了)


『行かなかった道』

黄葉の森の中で 道は二つに分かれていた
残念だが二つの道を行くことはできなかった
身一つの旅人ゆえ,しばらく立ち止まり
一方の道を 目の届くかぎり遠く
下生えの茂みに曲がっていくところまで見渡した.

それからもう一方の道を眺めた,同じように美しい,
あるいはもっとよい道なのだろう,
それは草深く まだ踏みつけられていなかったから.
だがそのことについていえば,実際は
どちらも同じ程に踏みならされていた,
しかもその朝は いずれもおなじように
黒く踏みあらされない木の葉でおおわれていた.
おお,わたしは はじめの道を,またの日のためにとっておいた!
だが 一つの道が次々に続くことを思い,
再びもどってくることがあるだろうかと疑った.

わたしは 幾年かの後 溜息ながらに
どこかで これを語るだろう,
森の中で 道が二つに分かれていた,そして わたしは——
わたしは 人跡の少ない道を選んだ,
それが 全てを違ったものにしたのだと.

安藤千代子「ロバート・フロスト詩集—愛と問い—」(近代文芸社,1992年)より引用

※訳者によって表現が若干異なりますが,
 最後の行は『それが今の私を可能にしたのである』などと解釈されています.


※他のメッセージは,ただいま編集作業中です.準備ができ次第,順次公開していきます.いましばらくお待ち下さい.

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